僕らが東京に出てくる直前、ミニアルバムの『プラスチックワールド』の中の「幸せな歌」をプロデュースしてくれたのがbiceさんだった。
あの頃は、こんなにインターネットが普及していなかったので音楽ファイルのやりとりなんて気軽じゃなくて、たしかローランドのMTRで録音したものをMDに落として、ギターと仮歌のファイルだけを東京に送った。「biceさんという人がプロデュースしてくれるよ」ということで、参考CDが送られてきた。その一つが『Covers』というアルバムだった。もう一枚は忘れた。もう一つは今も山口みなこが持っているはずだ。僕らはその音楽に歓喜した。こんな素敵で、センス抜群で、オシャレな音楽を作る人と知りあえるなんて!って。しかも美人!
東京からアレンジが送られてきた。まさかあのノイズだらけのギターがそのまま使われるなんて。biceさんのアレンジは大胆で、かわいらしく、遊び心が詰まっていて、まさにbiceさんそのもののトラックの仕上がり。ギターは正直、録り直せると思っていたのに。あのソロパートのファズギターはbiceさんの苦肉の策か?
東京のIRC2スタジオにてbiceさんと出会う。ちょっとツンとした奇麗なお姉さん。音楽に対して真っすぐ、人に対してはちょっと不器用、でもとても優しい人。その時ベーシストの千ヶ崎さんとも出会った。biceさんが引き合わせてくれたのだ。ボーカルのレコーディングについて、僕と山口みなこは喧嘩中だったが、biceさんがお姉さん役で山口みなこの意見を聞いてくれていた。屋上のミニバーに行って、写真を撮ったりして遊んだ。
その後、ベーシストの千ヶ崎さんは、「はじまりの日」で参加してもらい、渋谷のワンマンライブでも弾いてもらったりした。
「はじまりの日」のカップリング曲の「雨のうた」でコーラスとエレピをbiceさんにお願いした。僕なりの2人に対する親愛なる気持ちだった。
その後、biceさんとは「music tide」で競演させてもらったりした。youtubeにまだ残っているはずだ。
ドラマ「君はペット」のサントラの時は、biceさんの自宅で数曲レコーディングした。ずいぶん迷惑をかけながら、レコーディングしたのを覚えている。
山口みなこの結婚の時は、なぜか僕がbiceさんにご報告した。数年ぶりに聞けた声。滑舌の悪い、舌ったらずな話し方も、何も変わっちゃいなかった。
それから数ヶ月後。突然電話があり、数年ぶりに再会。
biceさんはいつも突然なのだ。
biceさんの新居にお邪魔した。聞けば、こんな僕にギターを弾いて欲しいとのこと。マジか?なぜオレ?全くこの人の行動は不可解だ。
「そういえばあの時の音源もらってませんけど」ってことで、ダンナさんと3人で「君はペット」を聞いた。
biceスタジオで打ち合わせしながら、参考曲を聴かせてもらったり、今biceさんが取り組んでいるユニットの曲を聴かせてもらったり、とにかくセンス良く、音楽を深く愛しているその感性に憧れる。
相変わらず、僕の中のB型女性そのまんまなbiceさんに嬉しく思った。
声をかけてもらったからにはと、僕なりにギターは頑張ったつもり。何度かSkype経由でやりとりしながら、一応OKをもらった。採用されたのかどうかは今となっては謎。一度、仕事帰りにでも寄って飲もうって話があったけど、都合が合わなくて実現しなかったことが、今となっては悔やまれる。
僕らの音楽性に大きく影響した人。
biceさんの曲は永遠に僕らの中に残る。
心よりご冥福をお祈りいたします。